東京・新国立劇場中劇場で現在、上演中の歌舞伎公演「仮名手本忠臣蔵」二段目・九段目(国立劇場主催)で大星由良助(大石内蔵助)の妻、お石(りく)を初役で勤める八代目市川門之助さん(65)が本公演や自身がライフワークとしている米ハワイ大学での歌舞伎指導について語った。
◇難しい役
門之助さんは父親(七代目門之助)の盟友、二代目市川猿翁の下で修業を積み、古典から新作の女形から立ち役、老け役まで勤めるなど芸域が広い。面長のすっきりした顔立ちと柔らかい物腰で気品あふれる高貴な役柄が似合う歌舞伎俳優だ。
「仮名手本忠臣蔵」は元々、人形浄瑠璃(文楽)の作品で、義太夫狂言とも呼ばれる。九段目に登場するお石は心の内を決して明かさず、武士の妻としての本分を通す気丈な女性として描かれている。
遠路はるばる訪ねてきた息子のいいなずけの小浪、戸無瀬の母娘に破談を申し出たり、2人の祝言を許す代わりに戸無瀬には夫の首を差し出すよう求めたり、する非情な対応を取る。
「義太夫ものは本行(文楽)を大切にしながらも、やはり歌舞伎なので先輩方が工夫してきたことを頭に置いて勤めなければいけない。いろいろなことを考えれば考えるほど演じるのが難しいです」
初役で演じる場合、過去に同じ役を演じたことがある歌舞伎俳優から指導を受けることも多い。「忠臣蔵のお役はどんな役が来てもすぐにできないといけないといわれていますがなかなかそうはいきません。無理をお願いして、先輩(中村魁春さん)に教えていただきました」
自分なりにお石の役柄を考えて稽古に臨んだ。「小浪のことを思い過ぎて、やさしいお石になってしまいました。魁春のお兄さんからは『武家の妻なのでもう少し強くなければいけない』と助言していただきました」
公演では、武士の妻らしく毅然とした佇まいで時に鬼気迫る迫力で臨んでいた。「強い中にも同じ母親として戸無瀬の気持ちも、かつて自分も嫁として嫁いだように小浪の気持ちも分かる。主君の無念や浪士たちの気持ちも分かる。そういった、お石の心情をどこでどう出すかがしどころです」
◇映画「国宝」
歌舞伎界を描いた映画「国宝」(李相日監督)が大ヒット中だ。「封切2日目に見に行ったんです。すごくおもしろかったですね。画面もすごくきれいでした。出演されていた方が大変な努力をしていらっしゃることがわかって、これはいい映画だと思いました」
ただ、こんなに話題になるとは思っていなかったという。「どんどん人気が出てきて、皆さんがSNSで騒いでいらっしゃる。それをきっかけに歌舞伎に興味を持っていただき、お客さまが増えればいいと思います。単なるブームだけで終わらせたくないです。歌舞伎の魅力を皆さんにわかっていただければと思います」
◇米ハワイ大で指導
米ハワイ大学演劇舞踊学科の学生を対象に、歌舞伎の演技方法を教える授業で、2019(令和元)年から芸術監督として指導。ハワイにはかつて芝居小屋がいくつもあり、1890年代から日系移民たちの間で歌舞伎が上演されてきた。
その伝統がハワイ大学でも受け継がれ、1924年に初めてキャンパスで歌舞伎が上演された。その後、正式な授業の一環として歌舞伎の演技指導が行われてきた。以前は二代目尾上九朗右衛門や二代目中村又五郎がハワイ大学で直接、指導に当たった。しかし、その後、歌舞伎俳優による現地指導が四半世紀にわたり、途絶えていた。
その話を聞き、自ら大学側に支援を働きかけたという。「このままではせっかく100年続いたハワイ大学の英語歌舞伎が途絶えてしまいますし、後継者も育てなければいけません。これから未来に向かって歌舞伎の研究や英語歌舞伎の公演が続けられるように、何とかしたいと手伝わせていただくことになりました」
英語を母国語とする学生たちへの歌舞伎指導は独特だ。まず日本語の台詞(せりふ)を覚え、歌舞伎独特のリズムや抑揚などを身につけた上で、英語に翻訳された台詞を歌舞伎独特の節回しで覚えるというもの。
このメソッドは以前、台詞の一部を抜粋して行われていたが、同学科のジュリー・イエッツィー教授が授業を担当するようになってからは、すべての台詞を日本語で覚えさせるように徹底した。その結果、学生たちは、歌舞伎の節回しで英語のせりふが言えるようになったという。
「(指導は)大変でした。歩くところからです。歩き方も男の場合だとお侍さんと町人、鳶頭では違う。身ぶり、手ぶり、傘の持ち方もそうです。あと日本語の小さい『っ』というのが発音しにくいようです。『知らざあ言ってきかせやしょう』も『言て』になってしまう。どうやったらハワイ大学の学生たちに分かってもらえるだろうか、といろいろと工夫しながら教えています」
今後もワークショップなどを通して、毎年ハワイ大学の学生たちに歌舞伎を指導していきたいという。「以前、教えた方が米国本土やカナダなど世界に散らばって、そこで教育者として歌舞伎を教えてくれているので、ハワイで教えたことが世界に広がっています」
◇
公演「仮名手本忠臣蔵」は9月27日まで。問い合わせは、国立劇場チケットセンター(0570・07・9900)。(水沼啓子)
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【歌舞伎】「歌舞伎を世界中に広めたい」市川門之助さん、米ハワイ大で指導 台詞は七五調の英語で
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