トンネルの中は真冬の外気と比べると、少し暖かく感じた。栃木県東部の、JR宇都宮駅から車で約1時間ほどの山中に掘られたトンネルは、太平洋戦争末期に造られた戦車工場の跡だ。現在、日本酒の貯蔵庫「どうくつ酒蔵」として利用されている。
「夏は涼しく、冬は寒くなり過ぎず、ちょうどよい天然の冷蔵庫なんです」と、この場所で日本酒を貯蔵管理する島崎酒造(栃木県那須烏山市)の島崎健一社長は話す。温度は年間を通じて10度前後、湿度も70%以上を保ち、日本酒の保存熟成には最適な環境だ。
昭和19年、戦車などを製造するための地下工場として、トンネルの掘削工事が始まった。地元の住民や学生などの手によって掘り進められ、縦3本、横5本のトンネルの総延長は約600mに達した。高さと幅は戦車を組み立て、搬出するのに十分な約3・5mの大きさだ。20年に完成したが、戦車を製造することなく終戦を迎え、放置されてきた。当時、中学2年生で工事に動員された健一さんの父、利雄さんは「作業の報酬として銀シャリのおにぎりが渡された。地域のみんなで協力し、約1年で完成させたんだからすごいよね」と感慨深げに当時を振り返った。
目的を失い、長年放置されてきたトンネルの地面は泥に覆われ、ゴミの不法投棄もあり、ひどい状況だった。約2年に及ぶ清掃整備作業を行うと、強固な岩盤に覆われた巨大な空間が再び現れた。
平成19年から同社が日本酒「東力士」の貯蔵などのために利用し、戦車工場は華麗なる転身を遂げた。
ここまで原形をとどめた戦争遺跡は全国的にも貴重だ。「地域の大切な遺産。地元のためにおいしい日本酒で恩返ししていきたい」。健一さんの力強い言葉がトンネルに響いた。
【探訪】トンネル酒蔵 戦時の労苦が生み出す熟成の銘酒 栃木県那須烏山市
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