稜線沿いに佇む1本のブナ。周りに高い樹木がないなか、青々と葉を茂らせている。「孤高のブナ」。いつからか人は、そう呼んでいる。
栃木県日光市の足尾銅山跡からほど近い中倉山(標高1530メートル)の頂上付近で幹を伸ばす。高さは約12メートル、推定樹齢は125年以上とされる。足尾銅山の煙害を耐えた〝生き証人〟だ。
足尾で銅の鉱脈が見つかったのは江戸時代。明治に入ると最新技術の導入などで東洋一の産出量となり、最盛期の大正時代には約4万人が足尾に暮らし、宇都宮に次ぐ県下第2の人口を誇った。
生産された銅が日本の近代化に貢献する一方、渡良瀬川の下流に銅山から広がった鉱毒が国内初の公害といわれる「足尾鉱毒事件」を引き起こした。足尾周辺でも製錬所が出す亜硫酸ガスで、周囲の山は草木が枯れ、はげ山になった。
閉山から今年で50年。今、足尾の山に緑が戻りつつある。
国や地元のNPO法人「足尾に緑を育てる会」による活動で、これまでに約30万本が植樹されたという。取り組みに携わる足尾環境学習センターの篠原一巳さん(69)は「山に緑が戻れば、川にもきれいな水が流れる。山に木があることが生態系の基礎になる」と力を込める。
地元観光ガイドの山田功さん(71)は「銅山の光と影をひっくるめた今の足尾を、ぜひ多くの人に見に来てほしい」と話す。
秋晴れの9月下旬、中倉山に登ると、かつて荒れ果てた山肌は草木に覆われつつあった。果たして数十年先は、どのような景色になっているだろう。緑が広がり、孤高のブナが大勢の〝仲間〟に囲まれていることを願うばかりだ。
(写真報道局 鴨川一也)
【探訪】仲間を待つ「孤高のブナ」 足尾銅山 閉山50年
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