海沿いにぽっかりと開いた大きな穴。下から上まで、小さなレンガが無数に積み重なっている。
神奈川県横須賀市にある造船所跡、通称「浦賀ドック」。レンガ造りのドライドックは世界に4カ所しか存在しないとされており、そのままの形で残っているのは国内にはここだけだ。
海から深く入り江が切り込む浦賀は天然の良港で、古くから海上交通の要衝として栄えた。嘉永6(1853)年、沖合に米国のペリー艦隊が来航すると、近代的な船舶建造の機運が高まり造船業が盛んになった。
そんな浦賀にドックができたのは明治32(1899)年。財閥主導の開発が盛んな時流のなか、旧幕臣と地元の有力問屋が出資する「おらが町」の造船所だった。石よりも低コストなレンガで建造したのも、大資本ではないからこその工夫だったと考えられている。
元所員の中島二三男さんは「造船所を中心に町全体が活気にあふれていた」と当時を振り返る。鉄を叩き、切り、削る音で「とにかくうるさく、町も騒がしかった」という。新船の進水式には町中の人がドックに押し寄せ、祭りのようになった。
中島さんが入社した昭和年代には近隣の工場も含めて約4千人が働いていたそうで、「給料日には男たちが飲み歩きにいかないように家族が門の前で待つ行列ができてました」と笑う。
平成15年に閉鎖されるまで海上自衛隊の駆逐艦や青函連絡船、東京湾フェリーなど計千隻を超える船の建造や修理が行われ、日本の海上交通を支えた。
2年前にドックを委譲された横須賀市は観光への活用を模索している。試験的に映画上映会やコンサートを開き、ペリー来航170周年となる今年は、ドックを会場にしたイベントやドローンを使ったショーを予定している。
1世紀以上も町を見つめ続けてきたドック。槌音はもう響かないが、これからも歴史を語り継いでゆく。
(写真報道局 鴨川一也)
【探訪】レンガが語る日本の近代造船史 神奈川県横須賀市「浦賀ドック」
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