「流氷が海峡を覆うと、国後(くなしり)島に歩いて行けるのでないかと錯覚してしまう」。千島歯舞(はぼまい)諸島居住者連盟羅臼(らうす)支部の鈴木日出男支部長(71)は言う。
毎年冬になると根室海峡に流氷が入り込み、数日だけ北海道本島と国後島が地続きになったように見える。
北方四島の一つ、国後島は面積約1500平方キロで沖縄本島よりも大きい。北海道本島の野付(のつけ)半島からわずか16キロ、約4400人が住む羅臼町からも25キロしか離れていない。ロシアによる不法占拠が78年続く日本固有の領土で、先の大戦終戦まで約7千人の日本人が生活していた。
元漁師で、母親が国後島出身の岩瀬栄さん(64)は、昭和54年ごろロシア船に拿捕(だほ)、拘束された経験を持つ。「スケソウダラ漁の操業中、銃を構え小舟に乗ったロシア兵に船ごと連行され45日間、色丹(しこたん)島の収容所に。そこで21歳の誕生日を迎えたときにロシア兵がたばこをくれたのを覚えている」と話す。世界有数の豊かな漁場は、ロシアの大型漁船や警備艇が往来し海上検閲も行われる「緊張の海だった」と振り返る。
同連盟理事長で元羅臼町長の脇紀美夫さん(82)は、終戦後も強制退去までの約3年間、国後島で生活していた。「入植したロシア人の子供と一緒に、魚とりや石けりをして遊んだこともあった。今、対岸に見える国後島は身近な景色だが、自由に行き来することはできない。先祖の墓参りさえも」と唇をかむ。
現在、ロシアの一方的な通告で約30年間続けてきた唯一の交流手段「ビザなし渡航」や「元島民の墓参」も中断されている。
「あと10年もすれば、元島民も皆いなくなる。なんとか自由に行き来できる策を見いだしたい」。 (写真報道局 鈴木健児)
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【国境の島】渡れぬ眼前のふるさと 流氷が繋ぐ国後島
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