ロシアによるウクライナ侵攻から24日で半年。日本へのウクライナ避難民は1700人を超えた。それぞれが戦禍にある故郷を想いながら、文化も言語も違う異国で前を向き、新しい一歩を踏み出している。
「泣きたくなることもあります。でも、いつかウクライナで日本語学校を開くという夢に向かって、この避難生活を糧にしたい」。アナスタシア・ボリシュフさんは5月、キーウから知人を頼り単身東京へと身を寄せた。母と妹、弟は故郷に残った。
子供の頃から本やアニメなど、日本文化に興味があり大学では日本語を専攻した。
来日当初は、電車に乗るのに苦労したという。「(路線が)まるで迷路のようですね」。ようやく今、仕事も決まり新しい生活に慣れてきた。「日本には、いっぱい星新一さんの作品があるのでうれしい」と、好きなSF作家の話になると笑顔も見せた。
しかし、長引く戦況に、不安や戸惑いもある。前向きでいられる毎日ばかりではない。
「私の夢もあるけど、正直、家族のことも心配です。ウクライナで起きていることをもっと日本の人々に知ってもらいたいし、私が伝える必要がある」。日本で生活するなかで、使命感とも思える気持ちが芽生え始めている。それは自分が、まだまだ遠いと感じる両国を結ぶ架け橋になることだ。
穏やかなクラシック曲が流れる中、「イチ、ニ、そう、ゆっくり」と、しなやかな指先や足の動きに子どもたちの視線が一気に注がれる。バレエに言葉はいらないようだ。
2月24日。あの日から生活が一変した。
ウクライナの首都キーウで子どもたちにバレエを教える日々を送っていたヴェルラン・ユリーアさん(34)。自宅の狭いシェルターに引きこもる生活が続き、自宅近所でも空爆の被害を受け、「怖くてたまらなかった」と長年住んでいた自宅から避難することをついに決意した。3月、陸路、ウクライナ西部のウジホロドの町へ。そこからハンガリーへ避難。長引く避難生活の間、日本の知人へ相談したところ、何度か来たことがあった日本への避難を決意し4月に来日した。
ウクライナで怪我する前は海外の公演などで主役を務めるほどのバレエダンサーだったユリーアさん。「子どもたちにはバレエをもっとうまくなってほしいし、人間的にも豊かになってもらいたい」と来日してからは週3日、バレエ教室の講師として現在は日本の子どもたちにバレエを教えられることに喜びを感じる。
しかし、唯一気がかりなのはウクライナに残してしまった母やウクライナ国外へ避難してばらばらとなってしまったバレエ仲間。母とは毎日オンラインで近況を報告しあっている。「ママ、元気?大丈夫?」とスマホ越しに母を見つめる目には自然と涙が浮かんでくる。いつか母とまた一緒に暮らせる日が来るのか。仲間とバレエを演技する日が来るのか。
来日してからは教え子たちからプレゼントされた白い自転車でバレエ教室へ通う。
キーウからはスーツケースにバレエシューズとレオタード、数枚の衣類しか持ち込まなかったから余計に感謝の気持ちを感じる。教え子たちの家に招かれ食事をとることもある。日々の日本語の勉強も欠かさず、「ユリーア先生」と呼ばれる日本での生活にもだんだん馴染んできた。
母と離れた生活が続いているが、いまはバレエしかない。バレエで恩返しをすること。
「すべての方々に私と一緒にウクライナのために祈ってほしい」とユリーアさん。ウクライナの一日でも早い平和と日本への感謝の気持ちを込めて。力強くかつしなやかな一歩を踏み出した。
マリヤさんのアカペラが歌い終わると会場に集まった人々から大きな拍手が沸き起こった。横で娘のカテリーナさん(36)が優しい目で見守っている。目に涙をためながら最後は声を震わせ「みなさまへ。心から青い空でありますように。ずっと家族と一緒に過ごせますように」と会場に集まった人々へ訴えた。
マリヤ・グジーさん(69)は3月に一人でキーウから避難してきた。娘のカテリーナさんはウクライナの民族楽器バンドゥーラ奏者でウクライナの伝統文化を日本各地で伝える活動を行っている。
母のマリヤさんにはまだ娘や孫がまだウクライナにいたが、「一人暮らしの母を放って置くことはできなかった」と娘のカテリーナさんは半ば強引にウクライナに残りたかったという母を日本へ呼び寄せ、現在は一緒に生活をしている。
ロシア侵攻後、一時はウクライナのことを伝えることがためらわれ、心から叫びたい怒りが湧いたが、「周囲からこういう時期だからこそ『ステージで訴え続けてほしい』『ウクライナの音楽バンドゥーラが必要だよ』という声があったから」と現在も二人でウクライナの伝統文化や素晴らしさを日本の人々へ伝え続けている。
日本でも馴染みのある「翼をください」や「イマジン」と演目が続く。「この機会を使って、ウクライナのバンドゥーラを通して音楽に国境はない、言葉もいらないということや世界中に平和を届けていきたい」とカテリーナさんのバンドゥーラ演奏ステージの最後は人前で歌うことに慣れていないマリヤさんのウクライナ民謡で締めくくられる。
温かい拍手に包まれながら最後の親娘のあいさつの際、「私を日本へ呼んでくれてありがとう」と娘を強く抱きしめた。娘の「バンドゥーラの音色」と母の「歌声」、日本各地で祖国ウクライナの平和を願う親子の新しいハーモニーが流れ始めていた。
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ウクライナ避難民 それぞれの新たな一歩
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