先が見えない急な階段を下りていく。蝉時雨が響く早朝の渓谷。厳しい暑さに汗が噴き出す。
涼を求め、大分県の由布、別府両市にまたがる「由布川峡谷」を訪れた。約60万年前に堆積した火砕流の地層を由布川が浸食して造り出した、深く、狭い谷だ。
「昔は階段がなく、子供も鎖を伝いながら岩に足をかけ、川まで下りました」
はさま由布川峡谷観光協会の内田はつみさん(76)が教えてくれた。夏休みには子供たちだけで川まで行ったわ、お客さんを渓流で釣った魚の天ぷらでもてなしたこともあったのよ|。内田さんの言葉には、住民の渓谷に対する愛情があふれていた。
河原に下りると、セミの声は消え、滝の音が耳に響いた。日差しは届かない。川の水は、触れると思わず声が出るほど冷たかった。断崖は、高さが最大で約60mに達し、狭いところで幅3~4mまで迫る。圧倒されているうちに、汗は引いていた。
由布川峡谷は平成28年の熊本地震で壁面が数カ所崩れ、翌年9月の豪雨や台風では川への階段が崩落した。
「水辺と触れあえる場所を残し続けたい」と、地元が尽力し、昨年3月に新しい通路が完成。3年半ぶりに川まで下りられるようになった。
取材の最終日、峡谷の魅力をより知ることができる新たなツアーが始まったと聞いて参加してみた。
ガイドの堤崇亘さん(34)とともに「パックラフト」と呼ばれる小型軽量のゴムボートに乗って、谷の奥へと川を進む。岩場にぶつかると、ボートを肩に担ぐ。歩いて岩を乗り越え、再び水に下ろした。堤さんは「ここを探検するためにできた道具ではないか。パックラフトの聖地を目指していきたい」と意気込む。
川の流れに身を任せ、舟の上から岩肌を仰ぎ見る。水に削られ続ける峡谷。悠久の時が造り出した絶景は、これからも変化し続けるだろう。いま目にしているのは、この瞬間だけの美しさなのだ。(写真報道局 鴨川一也)
大分の由布川峡谷 水辺と触れあう地元の思い脈々と
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