夜明けとともに山に入り、鬱蒼とした尾根を進む。侵入者に驚いたのか。鹿が谷の向こうを駆けていった。しばらく歩くと、視界が開けた。眼下に広がる茅葺家屋の集落。まるで昔話の世界だ|。
国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている、京都府南丹市美山町の「美山かやぶきの里」。
江戸から明治にかけて建てられた39棟の茅葺家屋が立ち並び、現在も大半の家屋で住民が日常生活を送る。売店や食堂はあるが、「訪れた人々が昔らしさや懐かしさを感じられるまちづくり」を目指す里の観光地化は控えめだ。
定期的なメンテナンスが茅葺の家屋を美しく保っている。集落の「北山型民家入母屋造り」と呼ばれる茅葺家屋は、東西南北の面ごとに20~25年おきに屋根の葺き替えを行っている。
取材に訪れたこの日、築160年以上という中野弘子さん()宅で屋根を葺き替えていた。午後の休憩で職人にお茶を出していた中野さんは「瓦やトタン屋根より涼しく、夏にクーラーをつけたことはない」と教えてくれた。
里は昨年12月、伝統的な景観を守りながら適度に観光客を受け入れてきたとして、国連世界観光機関の「ベスト・ツーリズム・ビレッジ」に選定された。
一方で、集落には高齢化の波が押し寄せている。住人の8~9割が高齢者で、跡継ぎが決まっていない家も多い。「昔は子供会もあるほど子供だらけだった」(中野さん)が、現在は移住してきた世帯に数人いるだけという。中野さんも一人暮らし。孫が5人、ひ孫が8人いるが皆、集落の外で暮らす。他の世帯も同様だ。
「帰ってこいとはいえないけれど、誰かが継いでくれたらうれしいね。(若者が)働く場があればよいのだけど」。胸中は複雑だ。
未来へ〝日本の原風景〟を残すため、大規模な観光地化や開発を避けてきたことが、集落内で生業を見つけるのが難しい一因になっているという。伝統的な景観か、住民の暮らしか。そんな二者択一ではないまちづくりの模索が続いている。
未来へ紡ぐ かやぶきの里
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