静かだ。耳に入るのは風が奏でる葉音と鳥のさえずりだけ。カメラを三脚に載せてじっと待つ。ふいに遠くから響いてくる車輪の音が混じったかと思うと、木が生い茂る山肌から車両が顔を出した。
平成元年にデビューしたJR九州の観光列車「ゆふいんの森」。現在は同社が何本も運行する観光面に特化した「D&S(デザイン&ストーリー)列車」のさきがけだ。
鹿児島線や久大線を経由し、博多駅(福岡市博多区)と、九州でも有数の温泉地・由布院温泉のある由布院駅(大分県由布市)を約2時間10分で結ぶ。車窓からの美しい眺めと凝った内装で旅の高揚感を楽しむことができる。
ゆふいんの森が観光地・湯布院のイメージ向上に果たした功績は大きい。「列車の名前で、『湯布院』の名前を知ってくれる子供も多い」と、由布市まちづくり観光局の生野敬嗣さんは話す。
由布院温泉は、古くから映画祭や音楽祭など独自の取り組みを通じ、日常を離れた旅と温泉の魅力を提供してきた。ゆふいんの森もまた、乗ったときから乗客に「非日常」を感じてもらうことをコンセプトとして設計されている。
そんな旅の〝案内人〟に地元の人々は深い親しみを感じてきた。沿線には「ゆふいんの森」を見かけると自然と手を振る人々が多いという。「ずっと手を振り返さないといけないから大変―と冗談まじりに話される乗客の方もいます」と生野さんは笑う。
路線は険しい山間部を通ることもあり、水害に悩まされてきた。令和2年の熊本豪雨でも鉄橋が流失。東西の線路が寸断された由布院駅に停車したままの列車の姿に地元の悲しみを重ね「オブジェのようだ」と感じた住民もいたという。
平成27年には久大線に新たな観光列車「或る列車」も加わった。観光のシンボルとして愛され続ける「ゆふいんの森」。平成から令和に変わっても地元の思いを受け、仲間とともに人々を旅へと誘う。
(写真報道局 萩原悠久人)
平成 令和の観光牽引「ゆふいんの森」快走
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