幾重にも重なる高層マンション群の奥で一筋の光が空へと伸びる。船を導く灯台のように、世界一の高さを誇る電波塔が東京の夜空に輝きを放っていた。
「こんなところに人が来るのか」。平成17年3月、東京スカイツリーの意匠設計を担当した日建設計の吉野繁さん(60)は、感慨を味わうよりも先に不安を抱いていた。
墨田区押上の建設候補地はほぼ駐輪場で、南を流れる北十間川は整備されていなかった。
提示された完成時の高さも634mという前代未聞のもの。既存の建造物では体感できない高度のため、富士山に登ってイメージを膨らませた。自分の足で頂点へ向かう展望台「天望回廊」のアイデアは、この時、山頂を一周する「お鉢巡り」から生まれたという。
デザインが決まると、北十間川に水質浄化装置やテラスなどが整備され、工事も順調に進んだ。しかし、残り20~30mで634mに到達するという矢先に、東日本大震災が発生。街から明かりが消え、工事も一時中断した。
皆が暗い気持ちに沈んでいたとき、看板が建設現場に掲げられる。工事を続けることで日本に希望をもたらす、そんな作業員たちの思いが込められていた。
スカイツリーは10年前の2月29日に完成した。
吉野さんは「富士山は、そこにあるのが当たり前の存在。だけど、ふとしたときに見えるとなんだかうれしい。スカイツリーもそんな存在になってくれれば」と話す。
地震や水害、コロナ禍ー。スカイツリーが見つめてきた10年は、明るいニュースばかりではなかった。しかし、先行きが不透明な時代でも、スカイツリーは変わらずにそこに建ち、うつむきがちな人々にメッセージを贈っている。
あの日現場に掲げられた看板にはこう書かれていた。
「上を向いて がんばろう 日本」 (写真報道局 川口良介)
「上を向いて がんばった10年」東京スカイツリー
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