黄や紫の花が咲き誇る水田でトキの幼鳥が餌を探す。新潟県・佐渡島ではこんな風景が初夏の風物詩になりつつある。トキの野生復帰を目指す環境省は、自然界で絶滅の恐れがない数を「放鳥後、野生下で1年以上生存、定着した個体60羽」と設定し事業を進めてきたが、6月に72羽の定着を確認、当初の目的を達成した。
今年の繁殖期、放鳥トキたちは過去最多の35ペアを形成し31羽の幼鳥が巣立った。また一昨年、38年ぶりに自然界での巣立ちに成功した2羽の繁殖も確認。放鳥トキ3世が誕生した。
しかし、手放しで喜べない現実もある。今年、巣立った31羽のうち15羽に、個体識別用の足輪が装着できなかったのだ。足輪は生態の研究や近親交配防止などに欠かせない。
取り付けは環境省の委託スタッフが木の上のヒナを捕獲して行う。しかし、営巣林の地権者と連絡が取れない、立ち入りが困難、複数の巣が接近していて人間が近付くと繁殖を妨げる、などの理由から、一部の巣では作業を断念した。
未装着の幼鳥には、近親交配の「きょうだいペア」から生まれた8羽も含まれていた。環境省は昨年、きょうだいペアのヒナ4羽を遺伝的な悪影響を避けるため保護している。が、今年は近親交配で生まれた個体が捕獲できず、初めて自然界に出てしまった。
日本野鳥の会佐渡支部の土屋正起副支部長は「近親交配の幼鳥も来年には成鳥と区別できなくなり、誕生年やきょうだいペアか否か、などの確認が不可能になる」と話す。一昨年、巣立った8羽も親鳥のストレスなどを考慮し足輪の装着は見送られていた。
新潟大学の永田尚志准教授(保全生態学)は「足輪がないトキが増えると、繁殖の成否など科学的分析ができなくなる可能性もある」と危ぐ。2年後には、20羽以上の足輪のないトキが一斉に繁殖期に入る可能性もある。
順調に見えるトキの野生復帰だが、生息数増加で新たな課題も浮き彫りになっている。
探訪 佐渡島の放鳥トキ 順調に繁殖 識別困難など課題も
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