広島県竹原市の沖合約4キロ、霧雨でかすむ瀬戸内海に、島内に所狭しと製錬所の施設が立ち並ぶ契島(ちぎりしま)(同県大崎上島町)が浮かぶ。そのシルエットはまるで軍艦。軍艦島の愛称で知られる長崎市の世界遺産・端島は島全体が廃虚と化しているため、製錬所が稼働中の契島は「生きた軍艦島」とも呼ばれる。
契島は明治32年、深川鉱山製錬所として銅の製錬を開始。昭和25年に東邦亜鉛が買収し51年に鉛を扱う契島製錬所として稼働、後に銀の精錬も手掛けるようになった。現在、鉛の年間生産量は9万トンで国内1位。その90%が自動車のバッテリーに使われている。
総面積9万平方メートル。24時間稼働で常時約250人が働く。島内には社宅もあるが、平日営業の簡単な売店しかなく、労働者の多くは島外からフェリーで通勤している。島全体が東邦亜鉛の私有地で、上陸できるのは会社関係者だけ。工場夜景や離島ファンには知られた存在だが、フェリーで訪れても島内に立ち入ることはできない。
離島めぐりが趣味で契島が103カ所目の作田邦彦さん(57)は「乗り降りする人を見て確かに『生きている軍艦島』を感じた」と満足そう。往復切符でフェリーに乗った作田さんだったが、島で下船することなく帰路に着いた。
契島はながめる角度によって表情を変える。近くに浮かぶ大崎上島(広島県大崎上島町)の神峰山頂上から臨むと、フランスの世界遺産、モン・サン・ミッシェルに見えるとの話も。しかし、大崎上島で食堂を営む徳森由紀子さんは「東京の人があまり東京タワーに登らないように、地元の人間として契島がきれいだと意識したことはない。わざわざ東京から来る人がいるなんて信じられない」と明るく笑い飛ばした。
探訪 雨にかすむ「生きた軍艦島」 広島県・契島
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