近代製鉄業発祥の地として知られる岩手県釜石市。夕暮れ時、湾を囲むように広がる市街地を山あいから見下ろすと、少しずつ明かりがともる。その中から上がる〝白い煙〟が目を引く。街のシンボル「釜石製鉄所」(新日鉄住金)の高炉跡にできた火力発電所の煙突から出る蒸気で、「鉄の町・釜石」の新たなランドマークになっている。
東日本大震災で釜石市の死者・行方不明者は1040人にのぼった。しかし、市内小中学校の児童生徒約3000人は地震発生直後から高台へ避難を始め、99.8%が津波から逃がれた。この行動は「釜石の奇跡」とも呼ばれている。
釜石には過去の津波被害の教訓から「津波てんでんこ」という教えがあった。「てんでんこ」は「各自、めいめい」を意味する方言。「大地震の後には津波がくる。取る物とりあえず各自ばらばらで高台へ急ぎ、命は自分で守ろう」ということだ。
釜石市教育委員会では平成17年以降「10年以内に宮城県沖地震が起こる」という想定の下、小中学生を対象に津波避難訓練を徹底していた。児童の声掛けで高台へ移動し難を逃れた人も多かった。「市教委では奇跡という言葉は使わない。訓練を重ねて備えたからこその必然」と職員の一人は胸を張った。
来月始まる第88回選抜高校野球大会に県立釜石高校が出場。3年後の日本開催のラグビーワールドカップでは、新たに建設される市内の競技場で試合も行われる。明るい話題と街の明かりは着実に増えている。
探訪・被災地から 着実に増える街明かり 岩手県釜石市
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