凛々しく馬にまたがり駆ける姿は、障害者とは思えない。だが〝隠れた障害〟と呼ばれる「高次脳機能障害」により、左側の空間を認識できない。さらに、手綱と鐙(あぶみ)を操る左手足がほとんど動かない左半身麻痺という2つの障害に立ち向かう。
JRA(日本中央競馬会)の騎手として活躍していた常石勝義さん(38)は、平成16年、小倉競馬場(北九州市)で落馬、くも膜下出血などで意識不明の重体となった。3カ月で意識は回復、復帰を目指したが、障害により引退を余儀なくされた。
体を動かすことのできない息子に、母の由美子さん(66)は、馬との触れ合いが唯一のリハビリと考えて乗馬を勧めた。週1回、乗馬クラブに通い始めると徐々に体が動き始めた。
「見ている方が心配するくらい見違える動きで、表情も輝いていた」と由美子さん。
同じ境遇の先輩から「障害者馬術」の話を聞き「またアスリートとして頂点を極めたい」と、再び競技の道を歩み始めた。
愛馬「明英」と練習に励む常石さんは「馬術を始めてより一層、馬が好きになった」と話す。
しかし、障害者馬術は、常石さんには不利な要素が多い。障害の影響で「物事を覚えられない」、「左側の空間をうまく捉えられない」といった症状が、『定められた経路』をリズムよく進むという、この競技での高い壁となる。
「何回も会ってるはずの人の名前が覚えられない情けない頭なんです」
そんな弱音を吐く息子をサポートするのも由美子さんだ。最近でも電車を乗り間違えたり、急にどこかにいなくなるなど心配が尽きないが、何でも一人でさせるようにしている。
「夢を実現させ、強く心豊かに生きてほしい。彼へのサポートは私ができる最後の子育て」と話す。
常石さんを指導する兵庫県の明石乗馬協会の三木薫コーチ(60)は、「大きい大会でもマイナス思考にならないからプレッシャーに強い。それが彼の強み」と話す。
「2020年の東京に向けて与えられたチャンスを最大限に生かしたい」
装鞍を終え愛馬にまたがると、必ずいつも首をなでながら「今日もよろしくね、明英」と話しかける。
ピンと伸びた背中がまぶしく映り、馬場の砂が心地よいリズムで舞い上がった。
「パラアスリート」馬術・常石勝義さん
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