山のかなたに日が沈み、うっすら明かりが残る西の空に星がちらつき始める。闇が迫る森の中で三脚に据えたカメラを構え懐中電灯で前方を照らすと、怪物の手のようにぐねぐねと枝を伸ばした木が浮かび上がった。
広島県北広島町大朝のテングシデは、熊城山東斜面の標高約650メートル付近に自生するイヌシデの一種。幹が曲がりくねり枝がしなだれた特徴的な形は、突然変異によるという。一帯には100本以上が群生し「天狗(てんぐ)の森」と呼ばれている。
「木に登ると天狗に投げられる」「木を傷つければ天狗のたたりがある」…。テングシデには天狗にまつわる逸話が多い。曲がった枝は天狗が寝泊まりするために作ったとも言われる。大きいものは10メートル以上、樹齢140年になるものもあるという。
通常、突然変異で生まれた生物は一代限りで遺伝しないとされるが、テングシデの形質は代々受け継がれ群落を形成するまでに至っている。学術的にも貴重で平成12年には国の天然記念物に指定された。
不気味な印象もあるテングシデだが地元では親しまれており、北広島町の地名案内標識にも採用されている。町内にある私立広島新庄中学校は、総合学習でテングシデの研究を行っている。生徒たちはテングシデの生態を調べたり、地域の人から集めた過去の写真から、テングシデと地域の歴史について考察するなどしている。
view 広島県北広島町のテングシデ 突然変異で天狗の寝床
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