満天の星が夜明けの空に溶けていく。尾根の向こうから朝日が差し込むと、山間に幾重にも並んだ棚田と集落の姿が照し出された。木々から立ち上った水蒸気が、薄い霧となってその上空を流れる。幻想的な風景に思わず息をのんだ。
九州山地に位置する宮崎県椎葉村。537平方キロと広大な面積を持ちながら、96パーセントを山林が占める。この村の下松尾地区にある棚田は近年、絶景として注目を浴びている。
同地区周辺は昔、川沿いや山の緩斜面に集落を成し、焼き畑農業でソバや大豆などを栽培し生計を立てていた。江戸時代末期から明治にかけて、当時の庄屋・松岡久次郎が中心となって、総延長約3キロの水路を開拓し棚田が作られたという。現在、村内有数の米どころになっている。
この棚田が知られるようになったのは、1枚の写真だった。数年前に行われた村の観光協会主催の写真コンテストがきっかけで「まるで世界遺跡のマチュピチュのようだ」と話題になった。
村では「仙人の棚田」と名付け、昨秋から観光資源として本格的にPRを開始。展望台を設営し、道路には案内看板も立てた。観光協会の椎葉記史事務局長は「展望台への道は狭く駐車スペースもほとんどない」と課題を挙げつつも、「熊本地震の影響で観光客が減ったが、棚田がもっと知られることで観光の起爆剤になれば」と期待する。
水路を作った久次郎の孫で、現在もこの地区で暮らす松岡鍾(あつむ)さんは「先祖が築いた棚田が、色んな人に見てもらえることはうれしいし、誇りに思う」と胸を張る。奥深い山里にあった棚田が、観光資源として新しい役目を担おうとしている。
view〝椎葉のマチュピチュ〟に脚光 宮崎県「仙人の棚田」
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