JR仙台駅の在来線ホームでは、地元ゆかりのバンドの音楽が昨年3月から流れている。モンキーマジックの「アラウンド・ザ・ワールド」と、ハウンドドッグの「ff(フォルティシモ)」。ともに仙台を誇りに思うアーティストたちが、大きな世界へ羽ばたく勇気をくれる歌を作った。音源は仙台フィルハーモニーの演奏。「楽都」と呼ばれる仙台でJR東日本は、ホームごとに発車メロディーを替える案も温める。
(藤沢志穂子)
「アラウンド・ザ・ワールド」は仙台空港とを結ぶ空港アクセス線のホームで流れている。世界へ飛び立つイメージを重ね合わせた選曲で、グループがデビューした2006年、2枚目のシングルで、TVドラマ「西遊記」の主題歌として発表され大ヒット。「まだ見ぬ場所にたどりつけるか考えながら旅立つ物語をイメージした」とTAXさん。「曲は3日くらいで速攻でできた。『チャイニーズ・ディスコ』がテーマ」とカナダ出身のブレイズ・ブラントさん。
モンキーマジックはカナダ人と日本人の混成グループで、青森県で結成され仙台市近郊に拠点を移し、現在もメンバー4人全員が住む。「僕は仙台出身。国内は、飛行機も使えば1時間半で大抵の場所に行け、東京に移る理由がない。『おらが街の音楽』として地元に愛され、世界中の方々に知ってほしいと活動してきた」とTAXさん。ブレイズさんは「仙台は『5人目のメンバー』。米ニューヨークが舞台の映画では、街がキャラクターに見えるのと同じイメージ」と話す。
地方の中核都市で、郊外にも近い仙台での生活を大切にするモンキーマジックは東日本大震災後、自らも被災しながら、沿岸部でのボランティア活動に従事した。「まず地元人として行動したかった」とTAXさん。その後、カナダのアニメーション作家、フレデリック・パック氏の展覧会のイメージソング「木を植えた男」を発表する。
パック氏は、アニメ制作会社スタジオジブリの宮崎駿氏や高橋勲氏にも影響を与えた世界的な作家。「僕も(兄の)メイナードも、カナダで子供の頃からテレビで作品を見ていて愛着があった」とブレイズさん。「現実を受け入れて進んでいける、皆さんの『希望の光』になる曲にしたかった」とTAXさん。グループは現在も、復興支援につながる企業との新商品開発や、桜の植樹などの地域興し活動を続けている。
いっぽう「ff」は東北本線、常磐線、仙石東北ラインで流れる、ハウンドドッグの1985年の大ヒット曲。東北学院大学(仙台市)で結成、デビューから5年あまりで初の大ヒットとなった。ライブの動員数は多くてもレコードセールスが今ひとつで、作風をロックとバラード中心からミディアムテンポの曲調に転じた「勝負の曲」だった。
「印象的なイントロと『愛がすべてさ』という歌詞のインパクトが決め手になり、バンドが全国区になった。駅メロに採用されるとは、光栄以外の何物でもない」とリーダーの大友康平さん。「駅を通る方が聴いて、少しでも元気になったりワクワクしてもらえたらうれしい」。
大友さんは宮城県塩竃市出身で、大学からデビュー以降の7年間を仙台市で過ごした。「今も来ると『帰ってきた』感覚になる。この街でバンドを作り、旅立ったことを誇りに思って今も活動している」と話す。
2曲のアレンジは仙台在住で、新幹線ホームの「青葉城恋唄」ほか、歴代の駅メロを手がけてきた音楽家の榊原光裕さんだ。かつて仙台市の伝説のバンドといわれた「コンビネーションサラダ」のキーボード奏者で、ドラムは稲垣潤一さん。「僕らの憧れの存在で、駅メロは榊原さんに安心してお任せできた」と大友さん。
仙台駅の駅メロ制作は、規定の30秒内で曲の特徴を出し、仙台フィルの生演奏用の譜面を書き起こさなければならない。シンセサイザーによる制作が大多数の他の駅メロに比べ、作業の難易度は高い。「ストリングスを効果的に、ドラマチックにつかって見事に30秒に収めている」(大友さん)。榊原さんは「『ff』は曲調がシンプルで、特徴を上手く盛り込めた。『アラウンド』はサビのメロディーが出てくるまでが長くて苦労した」と話す。ただ「メロディーの合間に乗車のアナウンスが入って、音楽が途切れてしまうのが残念」と苦笑い。
【駅メロものがたり】JR仙台駅「ff」
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