障がいのある・なしに関わらず共に学ぶインクルーシブ教育はどこまで進み、どんな課題があるのか。
高校進学を目指す親子を取材しました。
札幌市の佐藤広美さん。
娘の芽生さんはダウン症で重度の知的障がいがあります。
「名前を言ってくださいとか言ったりね」(佐藤広美さん) 「はい」(娘・芽生さん) 「練習をしているんですか」(記者) 「うん、そのつもり」(広美さん)
翌日は高校受験の本番です。面接の練習を続けてきました。
「名前を言ってください」(広美さん) 「さい!」(芽生さん) 「高校だよ、高校。高校」(広美さん)
つい照れくさくなってしまう芽生さん。
しかし広美さんは練習をやめません。
試験では高校で学びたいという意思を明確に伝える必要があります。
そして社会に出る第一歩でもあります。
「名前は?」(広美さん) 「佐藤芽生です」「お~!」(広美さん) 「名前を言ってください」(広美さん) 「佐藤芽生です」 「正解!」(広美さん)
2人は高校の見学を繰り返し、中でも芽生さんが一番楽しそうだった学校を受験することにしました。
「(教室を)開けてもらったら行こうとしたから、車いすで。それを見逃さず、やってみようと思ったの」(広美さん)
小中学校は地域の学校で学んできた芽生さん。
沢山の友だちとの関わりを通して社会性を育みました。
お母さんが車いすを押して。
親子はこうやって学校に通ってきました。
雪の多い冬、車いすでの登校は一苦労です。
「本人が学校が好きなんですよね。学校に行きたいという、朝起きた時とか普段すごく楽しみにしている。だからそれが原動力になるっていうか」(広美さん)
しかし、地域の学校で学ぶことは簡単ではありませんでした。
「ほかの学校の方がいいんじゃないですかといわれた」(広美さん)
行事も支援するスタッフの不足などを理由に参加を断られたこともありました。
迎えた高校受験の朝です。
芽生さんの父親は小学6年生の時に亡くなりました。
広美さんは芽生さんの将来を考えた時、特別支援学校ではなく高校を選びました。
「当然社会に出たら、障がいのある子ばかりの周りで生きていけないよね。やっぱり友だちとの関係で助けられたり、助けたりして本人もできないことはできないと言う。そういう社会性を育んでもらいたいというのはありましたよね」(広美さん)
試験当日は、大雪になりました。
見学の結果、受け入れてくれそうな札幌市近郊の学校までは約15キロ離れています。
「大丈夫だよね、へっちゃらでしょ、これくらいは」(広美さん)
受験する高校にはバスとJRを乗り継いで向かいます。
「もうすぐ、バス来るから。そしたら温かいよ」(広美さん)
障がいのある、なしに関わらずともに学ぶインクルーシブ教育が注目されています。
しかし、全国では今も定員割れしている高校で障がいのある受験生などが不合格になる、「定員内不合格」の問題があります。※現在は北海道にはない
また、2025年12月には北海道立の定時制高校で障がいの重い受験生を排除するような資料が共有されていたことが明らかになりました。
しかし、インターネットにはこうした不適切な方針に賛同する人たちの声があふれています。
こうしたコメントに憤りを隠せないのは恵庭南高校定時制の教諭・新岡昌幸さんです。
「どうしてそんなに腹が立つっていうか、牙をむくんだろうって。どこで学ぶか、何を学ぶかって本人しか決められないし。本人と家族しか決められないし、決めるのは彼ら。当事者なわけですよね」(新岡昌幸さん)
実際に障がいの重い生徒とも向き合ってきました。
「おお青野、来たか」(新岡さん)
ダウン症で重度の知的障がいがある青野洸夢さんです。
卒業して3年が経った今も交流が続いています。
「懐かしいしょ。どうですか」(新岡さん)
「いいですよ、ここ」(洸夢さん)
「もう一回入る?」(新岡さん)
「いいです」(洸夢さん)
この高校に合格する前、札幌市にある北海道立の定時制高校を受験しましたが2年間で5度の不合格。
面接試験で障がいのある受験生は「学力や意欲が足りない」として、不合格となることがあります。
新岡さんは疑問を感じてきました。
「知的障がいがあるって分かるような障がいあるじゃないですか。そういう子どもたちを目にしたときに学校の先生たちは、一般社会の人たちもそうかもしれませんがどうしてこの状態で高校で勉強できるんですかって。高校の勉強についていけるんですかってみんな口を揃えて言いますね。なぜですかね、僕は分からない、全然」
「高校教育の現状というのはほぼほぼ100%の人たちが高校に進学する中で、それだけの数の人が耐えうる教育のレベルではないくらい高いわけですよ。額面通りいくと。じゃあ、どうしているかといったら頑張りとか、意欲とかそれで単位を認め習得したという風に認めて進級・卒業させる」
「こと、知的障がいの子どもを目の前にした時に高校の勉強に耐えられるのかっていう問いをその場面だけに発するのは少し考えてもらいたいと思います」(いずれも新岡さん)
「大きく書かないと書けなかったのかな。全部大きいんだよね」(新岡さん)
洸夢さんは細かくノートを取ることが苦手でした。
新岡さんは何度も繰り返し指導しました。
「こういう風にこう…すごいよね。だいぶ違うでしょ」(新岡さん)
伝えたかったのは、投げ出さないこと。そして、人から学ぶ姿勢。
どちらも社会に出たときに大切なことです。
「強制されて何かをさせられるというよりも、むしろ自分で取り組む姿勢が高校生活の後半部分からは見られてきた」(新岡さん)
母親の比奈子さんも洸夢さんの変化を感じました。
「最初に、できない、やりたくないって言っちゃうときもあるんですけど。その後でふとこれは今やらなきゃいけないことなんじゃないかとか、なんか考える」(母・青野比奈子さん)
同級生も洸夢さんの頑張りを見て、応援してくれるようになりました。
一方、新岡さんは進級も厳しく判断。
洸夢さんは2度の留年も経験しました。
「僕らの人的な手が足りないとか、そういう個別の具体の問題と出くわしたときに僕らは何ができるか。真摯に向き合っていく。向き合って受け入れようってなったからにはまさにガチンコ勝負で。形式だけでなくて実質もしっかり教育活動にあたっていく」(新岡さん)
3年間過ごした地域の中学校を卒業する佐藤芽生さん。
友だちも沢山できました。
「芽生ちゃん、おはよう」 「卒業式頑張ろうね」(いずれも男子生徒)
「おはよう!」(芽生さん)
車いすの芽生さん。広美さんから姿は見えないけれど。
「はい!」(芽生さん)
「芽生、芽生、ばいばい」
「芽生ちゃんよくクラスを盛り上げて芽生、皆を笑顔にするもんね」(男子生徒)
そして、たくさんの友だちができたこと。
3年間の成長が確かに見えました。
「芽生ちゃん、頑張ったね。校長先生に佐藤芽生って言われたらハイって言ってたね。立派だった、とにかく」(広美さん)
そして、合格発表の日。
「ある~!芽生ちゃん!芽生ちゃん、合格!!」(広美さん)
高校で学びたい!障がいの有無に関わらずともに学ぶー"インクルーシブ教育"の現在地 進学へ面接練習繰り返す…教諭「受け入れると決めたらガチンコ」真剣勝負で学ぶ姿勢伝える〈北海道〉
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