「知床沈没事故 ~鎮魂と願い、再生への1年~」。
事故が暗い影を落とす、世界遺産「知床」の未来を考えます。
観光が再生するための課題とは。
流氷観光が終わり、大型連休を間近に控えた春の北海道・知床。
新型コロナの行動制限もなくなり、にぎわいの復活が期待されています。
北海道東部の斜里町と羅臼町にまたがる知床は2005年、世界自然遺産に登録されました。
ヒグマやイルカなどが間近で見られる観光船は人気を集め、コロナ禍以前は全国から年間150万人以上が訪れる観光地でした。
しかし、2022年4月に発生した観光船の沈没事故が、観光の街に暗い影を落としています。
大型連休中の宿泊施設の予約は伸び悩んでいて、ある民宿では例年よりも3割ほど少ないといいます。
タクシーの運転手は。
斜里町のタクシー運転手:「客が嫌だというところにエージェントも泊めるわけにはいかないし、個人客も来たがらない。厳しい1年だった」
斜里町によると事故後の観光客数は、コロナ禍以前の6割程度に留まる見込みです。
知床斜里町観光協会 野尻 勝規 会長:「事故に遭われたご家族や、まだ発見されていない方もいるので、なかなか誘客ができない1年だった」
5月8日から始まるマスなどの定置網漁を前に、準備を進める漁師の古坂彰彦さん。
事故直後から捜索に参加し、4日後に小さなリュックサックを発見しました。
中に入っていたのは菓子やゲーム機。
後に亡くなった3歳の女の子のものだと判明しました。
漁師 古坂 彰彦さん:「船が沈み、亡くなるまでの恐怖は相当だったと思う。漁師はみんな、それを想像できるから」
高校卒業以来40年以上漁師をしてきた古坂さんは、2022年11月、新たな挑戦を始めました。
自分で取った新鮮な魚介類を提供する居酒屋をオープンしたのです。
来店客:「普段食べられないものを出してもらって、うれしい」
それまで観光とはあまり接点のなかった古坂さんですが、知床の魅力をアピールし、事故の爪痕が残る街を少しでも元気づけたいという思いでした。
漁師 古坂 彰彦さん:「知床にはこんなにおいしいものがあるということや、地元の話題を自分が話すことによって、知床の素晴らしさを分かってもらいたい」
観光を復活させ、街を元気づけようという試みが広がっています。
斜里町ウトロ地区で、32年間民宿を営む小野寺猛さんです。
民宿 LANTAN 小野寺 猛さん:「沈没事故のダメージは大きかった。知床のイメージは、楽しめる雰囲気ではなくなってしまった」
小野寺さんの民宿では、北海道内外からやって来るアーティストが開くライブが人気で、それが目当ての宿泊客も。
しかし、事故後はそれを自粛しました。
民宿 LANTAN 小野寺 猛さん:「出演者もこういう時期だから、遺族の方の気持ちを考えたら延期するということに」
小野寺さんがライブに代わる目玉にと考えたのが、地元の食材を活用した食事の提供です。
民宿 LANTAN 小野寺 猛さん:「一番客が喜ぶのは、ここにしかないものを食べること。そのためにいろいろな種類の魚をそろえて提供する」
そこで白羽の矢を立てたのが、自分で取った魚で居酒屋を営んでいる漁師の古坂さんでした。
民宿で提供する新たな料理を開発しようと訪ねてきたのです。
古坂さんが作ったのは、地元で取れたブリをオリーブオイルで焼いた料理。
考えたこともない調理法でした。
小野寺さんは、古坂さんが取った魚を民宿の料理に使いたいと考えました。
民宿 LANTAN 小野寺 猛さん:「トキサケを刺し身用に欲しいんだ。12匹くらい欲しい」
漁師 古坂 彰彦さん:「12匹も用意できるかな、漁獲量が少ないから」
漁獲量が少ない中、なんとか確保してもらうことができました。
漁師 古坂 彰彦さん:「地元の旅館に地元の魚をどんどん使ってほしい。よそから仕入れるのではなく」
古坂さんは、漁師と観光に携わる人の距離が近づくことを願っています。
漁師 古坂 彰彦さん:「以前は観光関係者とは、そんなに仲良くなかった印象がある。もう少し仲良くなっていれば、この日は出航をやめた方がいいというような話ができる。そのような関係だったら、事故は起きなかった気がする」
4月16日、小野寺さんの民宿では本格的なライブが再開しました。
ライブに加え、地元産の魚を使った料理で宿泊客をもてなします。
観光地の知床で生きる人たちは、それぞれの立場で事故と向き合い未来を模索しています。
観光船沈没事故から1年 世界遺産「知床」観光再生への道のりは…地元漁師と民宿の取り組み 活気ある街の復活を目指して (23/04/20 19:45)
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