国が2013~2015年にかけて生活保護費を大幅に引き下げたことが、健康で文化的な生活を保障した法律に違反するかどうかが争われた裁判。最高裁は27日、引き下げを違法とする初の判断を示しました。国は減額した分の支払いなどを求められる可能性があります。
■原告勝訴「司法が役割果たした」
富山市に暮らす村山和弘さん(84)。生活保護の減額の取り消しを求める裁判で戦う原告の1人です。
村山和弘さん
「(蛍光灯が)3つあるけれど1つだけしかつけない。だから月3500円くらいで電気代は済んでいる」
月に5万円余りの生活保護と、2カ月に1回振り込まれる年金が頼りの生活です。今から10年ほど前、国は段階的に支給額を減らしました。村山さんにとっては月に5400円の減少でした。
村山さんと同じ思いを抱えた人たちが全国で裁判を起こし、27日、大阪と名古屋の裁判について最高裁判決の日を迎えました。最高裁が言い渡した判決は、生活保護費の引き下げは違法として減額の取り消しを命じるものでした。原告側の勝訴です。
小久保哲郎弁護士
「この国の司法が生きているかが問われた裁判だったと思うが、司法がその役割を果たした。本当にうれしく思っています」
■引き金は“リーマンショック”と“バッシング”
国はなぜ生活保護費を引き下げたのか。きっかけとなったのは2008年のいわゆる“リーマンショック”。世界的な経済危機で職を失う人が続出し受給者が急増しました。それと同時に広がったのが生活保護バッシングです。芸能人の家族が生活保護を利用していたことが批判的に取り上げられ、当時野党だった自民党は不正受給への非難を展開します。現在、官房長官を務める林芳正氏も総裁選の中でこう述べていました。
自民党 林芳正参院議員(2012年当時)
「生活保護制度を悪用して自分のポケットに入れているような人が出てきた。はた迷惑な人ですね。こういうはた迷惑な人を1人でも減らして、働く人を、働く場所を1つでも多く日本に作っていく」
自民党は生活保護費の1割カットを公約に掲げ、2012年の総選挙に臨みました。そして、政権に返り咲いた自民党。その後、厚労省は生活保護費を削っていきました。引き下げの根拠とされたのが当時のデフレ状況でした。牛丼並盛が1杯200円台の時代。物価が下がっているのであれば生活保護費も下げてよいだろうという判断です。
■物価下落根拠「国の裁量逸脱」
裁判で焦点となったのは、物価の下落率が引き下げの指標となったこと。そして、下落率の計算方法でした。総務省が出す消費者物価指数では下落率が2.35%だったのに対して、厚生労働省は独自に4.78%と倍の下落率を算定(2008年~2011年)。この数字をもとに支給額を引き下げました。
なぜこれほど差が出たのか。原告側は、生活保護受給者があまり買わないパソコンなど電気製品の価格下落が反映された恣意的な数字だったと訴えていました。
そして迎えた最高裁判決。厚労省による独自の物価下落率を使ったことについて「専門的知見との整合性を欠く」としました。そのうえで、そもそも物価変動のみを直接の指標として生活保護費を減額したことについて、こう話しました。
最高裁第3小法廷 宇賀克也裁判長
「厚労大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱や乱用があり違法」
■統一判断 各地の訴訟に影響か
全国各地で起こされた同様の訴訟。高裁判決が出ている12件のうち、名古屋など7件は生活保護の引き下げは違法として取り消しを求めた一方、大阪など5件は原告側の訴えを退け、判断は割れていました。各地の訴訟も今回の最高裁の判断が影響するとみられます。
判決では国に賠償を求める訴えは退けられました。ただ、原告側は減額された分をさかのぼって支払うよう求めていて、国の対応が今後の焦点となります。
原告 千代盛学さん(71)
「もうちょっと感無量なんですけれども。国に言いたいのは、今後こういう裁判が出ないような仕方をしてほしい。国会議員さんにも」
■原告2割超が死亡「助け合い社会を」
全国で1000人を超えた原告のうち、200人以上がすでに亡くなっているといいます。
久野由詠弁護士
「亡くなってしまった方もいるし、体調を崩されてここに来られなかった方もいます。この引き下げがあって何が奪われてきたのかということを、これからも訴え続けて、生活保護制度の改善につなげたい」
原告の1人の村山さんはもともと、夫婦で学習塾を経営していましたが、2人とも病気で働けなくなり、生活保護を受け取るようになりました。妻の良子さんが亡くなったのは、生活保護が減額された数年後のことでした。
村山和弘さん
「その冬は暖房を一切つけなかった。寒い冬だった。そして、その春に(妻が)亡くなった。悪いことをした」
妻の遺骨は費用の問題もあり、部屋に残されたまま。もともと訴訟を起こした妻の遺志を引き継ぎ、裁判に臨んできました。
村山和弘さん
(Q.今回、判決で違法性を認めたが)
「とりあえず大勝利ですね。僕たち原告が1000人ぐらいいて必死でやっている。途中で亡くなっているのは妻だけでなく、いっぱい亡くなっている。それを引き継いでいる。日本が人権というか、助け合い社会になれるかどうか」
■最高裁 統一判断の“意味”
社会部司法キャップの古賀康之記者に聞きます。
(Q.原告側は「この訴訟はお金の話ではなく、人間の尊厳をかけた戦いだ」と話していました。今回の判決はどんな意味を持ちますか)
社会部司法キャップ 古賀康之記者
「今回の裁判には、色んな理由や境遇で働きたくても働けず、生活保護を受けることになった人が多く参加していました。同様の裁判は今回を含めて全国で31件あります。27日の最高裁判決は統一的な判断となります。今、全国の裁判所で審理されている裁判においても、27日の判決をベースに審議されることになるので、他の地域の原告にも『勇気づけられた』と語る人がいました」
最高裁が「違法」としたポイントはどこにあったのでしょうか。判決では「物価変動率だけでは、消費実態を把握するためのものとしては限界のある指標だ。専門的知見があるとは認められない」「厚生労働大臣の判断の過程や手続きは誤りで違法」としました。
(Q.最高裁は「厚労省の判断は誤りだった」としていますが、これはどういうことですか)
社会部司法キャップ 古賀康之記者
「『物価変動率』とあるのがポイントです。当時はリーマンショックなどで経済状況が厳しくなるなか、生活保護の方とそうでない方との不均衡を是正する動きがありました。当時は物価が下落するなかで、物価変動率を指標にしました。今回の判決では、物価変動率のみを指標にしたこと、そして専門家などによる検討をせずに減額を決めたこと。こうしたある種、乱暴な決め方、進め方は手続きに誤りがあると結論付けました」
(Q.減額された分の補償は果たされますか)
社会部司法キャップ 古賀康之記者
「厚労省が減額分の扱いについて検討に入ったところです。ただ、仮に支給するにしても難しい問題がありそうです。当時の受給者は約200万人とされていますが、すでに亡くなっている方もいれば、当時は受給していたが現在は受給していない方にも補償するのかという指摘もあります。また、減額分は670億円という試算がありますが、これは引き下げ前に出した試算で、実際の減額分を精査するのにも大変な労力・時間がかかると思います」
[テレ朝NEWS] https://news.tv-asahi.co.jp
生活保護費引き下げ「違法」最高裁が初判断 各地の訴訟にも影響か【報道ステーション】(2025年6月27日)
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