2万2千人以上の死者・行方不明者を出した東日本大震災から、10年が経とうとしています。原発事故の影響から一度は人口がゼロになった町で、復興に向けて期待を集めているのは首都圏から移住した若者たちです。
▽南相馬に「酒蔵」を
蒸し上がったコメを手に取り、状態を確認していく若者たち。この地に途絶えた酒蔵を新たに作ろうとしている、佐藤太亮さんと立川哲之さんです。
福島県、南相馬市小高区。あの日、震度6弱の揺れは家々を破壊し、7m以上とも言われる津波が町を飲み込みました。さらに原発事故は、20キロ圏内のこの町から人々の姿を消し去ったのです。その一角に今、空き家となっていた民家を改装した酒蔵が造られていました。
「元々あった屋根裏の木とか、むき出しで出していくっていう作り方をしていますね」
去年、東京と埼玉から移住してきた太亮さんと哲之さんは共に学生時代から”酒造り”に憧れ、一度は就職したものの想いを遂げようと、別々の酒蔵で経験を積み小高区にたどり着いたといいます。
「学生時代に(東日本大震災の)支援活動みたいなことをやっていて、この相双地域に酒蔵が震災後いったんゼロになってしまっているというのを知って、酒を造るとしたら何かしら酒自体が意味を持つというか、メッセージを発信できるようなものにしていきたいなと」
「やっぱり酒蔵があると、人が集う。そういうのが場所として一番意味のあるところでありたいなというのが一つの大きな理由です」
しかし、関東出身の太亮さんたちには、酒蔵の物件探しが大きなハードルでした。そんな彼らに救いの手を差し伸べたのが、彼らが事務所としている協働オフィスを運営する和田智之さんでした。
「彼らが移住して、地域に定着することとか、あるいは起業するにあたってサポートすると」
震災から5年後、小高区の避難指示は解除されました。しかし、戻ってきた住民は震災前の3割ほどだったといいます。さらに、高齢化が進む町の現状を何とかしたいという想いがそこにはありました。
「この地域はコミュニティーが一旦なくなってしまったので、お酒を造る場所と飲める場所があることによって、そこを核としたコミュニティが再び出来てくるようになる」
▽古くから伝わる製法に挑戦
二人が目指すのは、ビールに使われるホップに似た「唐花草(カラハナソウ)」を用いた“幻”ともいわれる酒づくりです。
「元々酒造りって、今の酒造りより自由度が高かったんですね。その自由度が高かった時代の酒造りで出てきたレシピというのが文献に残ってるんですけど、今ほとんど製造されていない製法なので、復活させていきたい」
それは、“花もと”(はなもと、「もと」は酉に元)と呼ばれる、東北の一部で伝えられてきたもの。日本酒の原料である米や水に唐花草を加え、香り高く仕上げるのだといいます。
「東北で酒造りをしていく中で、元々東北という地域でつくられていた製法というのはすごく興味はありますし『こうすれば美味しくなる』みたいな、確立されたものがないので、そこを探求していきたいなというのは思っていますね」
さらにこだわったのは、地元の素材です。訪れたのは、同じ南相馬市の有機栽培にこだわるコメ農家。
「いわゆる食べるお米で、飯米と呼ばれているものですね。お酒用ではないお米です」
通常、酒造りには専用の“酒米”が使われます。しかし今回は、コメそのものの旨味をより際立たせるため“食べる米”を使用するといいます。原発事故の影響から、10年を経た今も風評被害に悩まされている、福島のコメ。
「この土地でのお酒っていうのを表現するときに、食べるお米を使わせていただくというのはひとつ付加価値にもなるかなと思ったところはありますね」
2月下旬、手探りの酒造りが始まりました。蒸したコメに麹菌をふりかけ、麹を繁殖させる。お酒の質を左右する大切な作業です。温度や湿度に細心の注意を払いながらも、仕上がりは、菌に任せるしかありません。
「(麹菌に)ぜひ頑張ってください。期待してるよ~」
そして作業は『仕込み』に入ります。タンクの中には、蒸したおコメと麹、さらに唐花草の煮汁を加え攪拌しながら発酵させていくのです。
立川「香りがすごいですね、やっぱり」「本当に紅茶とアロマのいい香りがしますよね」
▽「復興」は次世代の担い手と
この日、酒蔵となっている空き家を管理していた人物がやってきました。
「だいぶ大きく変わって、いいんじゃないですか」
小高区で代々続く織物工場を営んでいた和田善行さんです。二人の酒造りを、町の人たちは歓迎しているといいます。
「復旧は我々でもできます。壊れたものを直すのはね。でも、復興は若い人がいないとだめだから。大いに期待
ています」
いま、町の人たちの希望と若者の夢をのせたお酒は静かに、そして確実に時が来るのを待ちながら息づいています
佐藤「10年という時間があった中で、そんなにメッセージとか自分たちの想いとか、押し付けることなくお酒というカジュアルなツールで、純粋に楽しみに来て、結果それがこの土地に意味のあるものになっていけばいいなって感じですね」
[テレ朝news] https://news.tv-asahi.co.jp
「未来への酒造り」都会から来た若者が描く夢と復興(2021年3月7日)
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