刑事裁判をやり直す「再審制度」の見直しをめぐり、永田町で連日議論が紛糾しています。最大の焦点は、検察の不服申し立てである「抗告」を認めるかどうかです。
政府は当初10日に閣議決定し、法案を提出する方針でしたが9日午前、国会に先送りを伝えました。
着地点が見えない「再審制度」見直し案。この制度のいろはなどを若狭勝弁護士とともに深掘りします。
■重大な事実誤認が判明した場合に裁判をやり直す「再審」
刑事裁判では、地裁・高裁・最高裁で3回まで裁判を受けられる“三審制”がとられています。その目的は、公正で慎重な裁判を行い、誤りを防いで人権を守るためです。
しかし、無実を示す新たな証拠が見つかるなど、重大な事実誤認が判明した場合、判決が確定した後に裁判をやり直す手続きが「再審」です。
再審が認められた事例としては、1966年の袴田事件、1986年の福井女子中学生殺害事件、1984年の滋賀・日野町事件などです。
袴田事件は、静岡県で一家4人が殺害された事件で、1980年に袴田巌さんの死刑が確定した後、2024年に再審で無罪判決を受けました。福井女子中学生殺害事件は、前川彰司さんが懲役7年の判決が下された後、2025年に再審で無罪判決を受けました。
そして、酒店店主の女性が殺害され金庫などが奪われた滋賀・日野町事件で、阪原弘さんは無期懲役の判決を受け、2011年、服役中に死去。事件から42年後の今年2月に再審が認められました。
若狭弁護士によると、2023年までの5年間で再審の決定率は1%以下であることから、再審は「開かずの扉」といわれています。
若狭弁護士
「地裁、高裁、最高裁で11人ぐらいの裁判官が関わって、最終的に有罪判決としているので重みがあります。逆に再審開始決定が多いと裁判が信用できないものになってしまいます」
■現行制度に立ちはだかる“2つの壁”
再審開始までには“2つの壁”が存在します。
①証拠開示ルールの欠如
検察に証拠提示を義務付ける明確なルールがないので、仮に検察が被告の有利な証拠を持っていても提出の必要がありません。
若狭弁護士
「だいぶ前の検察は新たな証拠開示をすることを頑なに拒否していましたが、法律の改正などで裁判所から証拠開示するよう命令が出せるようになっています。しかし、現行法においては、証拠開示ルールが欠如しているのは確かです」
②検察による不服申し立て(抗告)
地裁が再審開始を決定しても、検察の不服申し立てである「即時抗告」をした場合は、高裁で改めて審理します。そして高裁が再審を支持した場合、検察が「特別抗告」をした場合は、最高裁で審理します。最高裁でも支持された場合には、裁判のやり直し「再審」が可能となります。
袴田事件では、2014年に静岡地裁で再審開始が決まってから、初公判まで約9年が経過していました。若狭弁護士は「裁判のやり直し開始までに膨大な時間がかかり、たとえ無罪を勝ち取っても失われた時間は戻らない」と指摘します。
■議論紛糾! 法改正の行方は…
そんな再審制度の見直しをめぐり、議論が紛糾しています。
法務省が作成した刑事訴訟法改正案は今月上旬にも国会に提出する見込みでしたが、自民党による事前審査で一部議員から反対論が噴出しています。
主な焦点は、「証拠の開示」と「検察の不服申し立て(抗告)」についてです。
〇証拠の開示について
現行法では証拠の開示について規定されていませんが、自民党の一部議員や日弁連は、全面的な開示を求めています。一方、政府の改正案は「再審請求の理由に関連すると認められるもの」としています。理由は、最高裁の法的な安定性が揺らぐことになりかねないというものです。
若狭弁護士は「検察は証拠を開示すべきだが、その範囲は制限が必要」と考えます。
若狭弁護士
「目撃した証人や当事者は当初は違うことを言ってたりすることもあるので、全面開示すると何がなんだかわからなくなってしまうおそれもあります。ただ、限られた証拠だけとなると今とあまり変わらないので、あくまで検察に開示は相当しなさいという制度を設けることが必要です。それに加えて、裁判所が証拠開示の命令をどんどん出せるような運用をしていけば、この証拠開示の問題はある程度解決していく可能性はあると思います」
〇検察官の不服申し立て(抗告)について
また、検察官の不服申し立て(抗告)について現行法は「認める」としていますが、自民党の一部議員や日弁連は禁止するよう求めています。一方、政府が検討している改正案では「認める」となっています。
若狭弁護士は「被害者遺族の思いを考えれば、検察の主張も重要。一度は認めるべき」と考えます。
若狭弁護士
「(再審開始にかかる時間は)裁判所の意識で短くしようと思えばいくらでもできます。今までのやり方だと、当事者にしてみると進んでないという意識がありますが、裁判官の意識の問題だと思います。例えば、公職選挙法違反では『100日裁判』と言って100日で有罪判決まで至りなさいと法律で規定されています。再審の問題についても、仮に1審では2年、最高裁まで行ったとしても3年で決めなさいと決めてしまえば、あとは裁判所が意識改革して進めなければという話になると思います」
■「近年の事例を踏まえてもう一度議論を深めるべき」
特に反対意見の多い「抗告」については、一定の制限を設ける方向で検討が進められていますが、今後どうするべきなのでしょうか。
若狭弁護士は「刑事訴訟法が制定された1949年以来、再審に関する規定は一度も改定改正がされていない。近年の事例を踏まえて、もう一度議論を深めるべき」と指摘します。
若狭弁護士
「大事なのは今後、裁判員裁判で出された有罪判決について再審の申し立てがされる場合が出てくることです。一般の人が関わった判決で再審の申し立てがされれば国民全体の問題です。その意味では、決して急ぐ必要はないので、国会でしっかり議論を重ねる必要だと思います」
(「newsおかえり」2026年4月9日放送分より)
再審制度の見直しめぐり意見対立 証拠開示・抗告はどこまで認める? 今後、裁判員裁判を経た有罪判決がやり直しとなる場合も…「近年の事例をふまえて議論深めるべき」弁護士解説【きょうの深掘り】
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