私たちの給与から天引きされている「社会保険料」。少子高齢化が進む中、年々負担額は増加していて、今回の衆院選の争点にもなっています。
日本の社会保障制度は維持できるのでしょうか。野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミストの木内登英さんと“深掘り”します。
■社会保険の財政状況は「非常に悪化」
日本の社会保障制度は社会保険・社会福祉・公的扶助・公衆衛生からなり、厚労省は「国民の安心や生活の安定を支えるセーフティネット」と位置づけています。
社会保険には、健康保険・厚生年金保険・介護保険・雇用保険があり、社会保険料は毎月の給与から天引きされています。
木内さん
「社会保険は我々が出したお金で基金を運用して将来受け取るので、民間保険と仕組みとしては同じですが、社会保険の財政状況が非常に悪くなっているため、税金を注入しないとやっていけない状況です」
私たちは社会保険料をどれくらい払っているのでしょうか。社会保険料は月収に各保険料率をかけて算出します。従業員の負担額は、会社と折半になります。
社会保険料 = 月収 × 各保険料率 ÷ 2
例えば、大阪府在住の会社員Aさん(40)の額面収入が月40万円だった場合、社会保険料の負担額は以下のようになります。(「タレントスクエア」の手取り計算ツールにて試算)
・健康保険 2万992円
・厚生年金保険 3万7515円
・雇用保険 2400円
・介護保険(40歳~) 3280円
さらに、所得税8116円と住民税1万8741円が引かれ、手取り額は30万8956円となります。
■2070年には高齢者1人を現役世代1人で支える「肩車型」に
所得のうち社会保障負担が占める割合は右肩上がりになっています。社会保障負担率は1970年度は5.4%でしたが、2025年度は18.0%まで上昇。
木内さんは「2040年度には高齢者人口がピークになると予想され、今後もさらに医療費の負担は増えるだろう」と分析します。
2023年度の国民医療費は48兆円で、23年間で約18兆円も増加しました。これに伴い、現役世代の負担も増えています。
1950年は65歳以上の高齢者1人を支える現役世代(15~64歳)は12.1人で「胴上げ型」でした。しかし、2024年には現役世代2.0人の「騎馬戦型」に。そして2070年には現役世代1.3人の「肩車型」になると推定されています。
健康保険組合の年間の保険料は、従業員と事業主の負担額を合わせると、2015年度は1人あたり約48万4000円だったのが、25年度には約54万4000円となっています(健康保険組合連合会のデータをもとに作成)。
木内さん
「医療の高度化に伴って、よりコストが高い医療技術が生み出されていきますので、それを公的な医療保険の適用の範囲に入れていくと、医療保険の支出も増えていくということです。良いことでもあるんですけど、負担も高まってしまうという面があるということですね」
■「原則1割」の高齢者の窓口負担を上げるしかないのか
社会保険料を下げることは可能なのでしょうか。
現行制度で75歳以上の医療費の窓口負担は原則1割。一定の所得者(単身世帯は年収200万円以上、複数世帯は年収320万円以上)は2割、現役並みの所得がある人(単身383万円以上)は3割となっています。
これに対し、木内さんは「資産がある人は原則3割負担にしてもいいのでは」と提案します。
木内さん
「高齢の方は所得がない人も多いので、多くの人は1割負担です。例えば一部の政党は“高齢者の保険の窓口負担割合を増やそう”と言っていますが、底流にある考え方としては、所得がなくても資産がたくさんある高齢者の方もいるので、支払う能力のある人には払ってもらわないと社会保険制度はなかなか成り立たない、ということです。ただ、資産を捕捉するのが難しいので、すぐにやりましょうと言ってもなかなか難しいと思います」
■所得ではなく資産に課税する仕組みも考えられる
株式や預貯金など様々な金融資産がありますが、木内さんは把握する方法として「証券会社や銀行が政府に届け出る仕組みを作るべき」と考えます。
木内さん
「給料については、企業から従業員に支給した金額を税務当局にも知らせるシステムがあるわけですね。サラリーマンの人の所得は、税金を払うときに完全に把握されていますが、資産についてはそうなってない。例えば自己申告はひとつの方法で、確定申告で資産をどれだけ持っているかを書けば捕捉できますが、みんなが正直に書くとは限りません。企業側のデータを集めて捕捉する方法も考え方としてはあると思います。株や債券などの金融資産については、証券口座にかかる金融所得課税の業務も証券会社がする形になっていますので、そこからデータを集める、あるいは銀行預金であれば銀行からデータを集めたら、かなりの部分が捕捉できると思います」
高齢者に限らず、現役世代の高所得者の負担割合を増やす選択肢もあります。そのためには、木内さんは「保険料負担の上限をなくすべき」と説明します。
厚生年金の保険料には上限があり、来年から段階的に引き上げとなりますが、現在は月収65万円以上であれば、保険料は一律5万9475円となっています。
木内さん
「一気に上限をなくすよりは、徐々に上げていくのが現実的なアプローチだと思います。保険料の負担が重いと感じているのは中低所得の人であって、高額所得であれば給料に対する割合は小さくなるので、あまり負担ではありません。高額所得の人の負担を増やせば、中低所得の人の保険料を下げる原資にもなるので、支払い能力のある人にはもう少し負担してもらわないと制度が維持できません」
■課税額を増やすのではなく医療費を減らすアプローチもある
社会保険料を下げる上で、医療費を削減するというアプローチもあります。
木内さんは「病院で処方されている薬のうち、市販薬と成分や効果が似ている薬(OTC類似薬)を保険適用から外し、自己負担で購入する形にするのがよいのではないか」と話します。
ただ政府・与党は先月、OTC類似薬の保険除外について見送ると決めました。
木内さん
「暫定的な措置として値段を上乗せする形で、OTC類似薬をもらうために病院に行くのを抑えるよう工夫をしていますが、多分あまり効果がないので今後の課題として残っています」
■社会保障めぐる各党の主な公約 判断するのは有権者
社会保障をめぐる各党の主な公約は以下の通りです。
自民:中・低所得者(若者・現役世代を含む)社会保険料等の負担軽減
中道:医療サービス維持のまま現役世代の負担軽減
維新:現役世代の社会保険料年間6万円負担引き下げ
国民:社会保険料還付制度で現役世代の社会保険料負担を軽減
共産:年金引き上げ
れいわ:社会保険料を引き下げ、介護保険の国負担を50%以上に引き上げ
減・ゆ:安心できる社会保障の実現
参政:減税と社会保険料の削減で国民負担率を35%に
保守:外国人の健康保険・年金を別立てに
社民:高額医療費・OTC医薬品の自己負担額増に反対
みらい:社会保険料の引き下げ
今回の衆院選では、ほとんどの党が社会保険料の軽減や削減を打ち出しています。自民、中道、維新、国民は特に現役世代を対象にした公約を打ち出しています。一方で、減税についてもほとんどの党が訴えていて、社会保険料も引き下げるならその財源をどうするのか、あるいは現役世代と高齢者が互いに納得して支え合えるバランス、落としどころはどこにあるのか。公約を見比べた有権者がそれぞれ考えることになります。
(「newsおかえり」2026年1月29日放送分より)
高齢者の負担を増やすしかないのか 財政状況は非常に悪化、年々増加する社会保険料は衆院選の争点に 制度を維持するために必要なことは エコノミスト解説【きょうの深掘り】
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