近年、葬儀をめぐるトラブルの相談が急増しています。トラブルを防ぐために知っておくべき葬儀費用の”からくり”など、朝日新聞東京本社・編集委員の森下香枝さんに聞きました。
国民生活センターによると、「葬儀サービス」に関する相談は増加傾向にあり、昨年度は978件と過去10年で最も多くなりました。今年度も11月末時点で557件と、昨年と同じペースとなっています。中でも、「葬儀会社に高額請求されたが説明もない」といった、お金に関するトラブルが多いということです。
そもそも、葬儀にはどれくらいお金がかかるのでしょうか。葬儀相談・依頼サイト「いい葬儀」によると、関わりのある人を広く招いてお通夜、葬儀、告別式、火葬という流れになっている一般葬だと約161万円、家族葬は約105万円、一日葬は約87万円、直葬は約42万円が相場だということです。
森下さんは「今は家族葬が増えてきていて、全体の葬儀の中の50%を占めている」といいます。コロナの前は一般葬が50%以上を占めていましたが、コロナ禍で逆転してしまったのが現状だそうです。
では、実際にあったトラブルの事例をみていきます。
■トラブル1「具体的な金額がないのに…」
90代の姉の葬儀で喪主を務めた80代女性。集まる親族は8人ほどだったので、一日葬をすることにし、病院から紹介された葬儀会社と契約しました。
先ほど紹介した一日葬の相場は約87万円ですが、届いた見積書の金額にはなんと391万円という数字が。しかも、「何にいくらかかるのか」という項目ごとの金額もありませんでした。女性はキャンセル料を支払い、別の会社に依頼したということです。
キャンセル料について、森下さんは「契約にもよるが、だいたい1割ぐらい」といいます。しかし、この女性のケースではキャンセル料もそれなりの金額になりました。
■トラブル2「請求書をよく見ると…」
親族の家族葬を契約した神奈川県の男性。送られてきた請求書の金額には、108万円とありました。ところが項目をよくみると、エンバーミング(遺体の保全処置)代とドライアイス代がともに請求されていました。森下さんは「この2つは“どちらかをやっていればいい”もので、二重請求となっている」といいます。
さらに、アフターケア代に13万2000円の記載もありましたが、森下さんは「このような項目は聞いたことがない。不可解な項目で上乗せされている」と指摘します。
■葬儀業界には「高額になるシステムが存在する」
森下さんは「葬儀業界には、高額になるシステムが存在する」といいます。
消費者が申し込みをするとき、インターネットで検索して出てくるような会社は、基本的に「元請け」とされる会社が多いということです。消費者から申し込みを受けると、そこから実際に作業をする「葬儀の運営会社」に発注がいきます。運営会社は、元請けの葬儀会社に対して紹介料(基本料金の3~4割)を支払うという仕組みです。運営会社としては、さまざまなオプションを追加して、もうけを出そうとします。
鎌倉新書「いい葬儀」の調べでは、3人に1人が「見積もりよりも支払いが増えた」と答え、増えた額の平均は19.5万円でした。
■葬儀会社がお布施を“ぼったくる”ケースも
また、僧侶向けの“僧侶手配アプリ”というものも存在します。地域で葬儀案件が発生すると運営している葬儀会社から通知が送られ、僧侶側が受けられる場合に返信するというものです。登録料は月に数千円ほどで、案件を受けた場合、僧侶側が受け取るお布施の75%が手数料としてかかります。25%ではありません、75%です。
天台宗・宝泉寺の横溝常之住職は、「僧侶の中には、業者から仲介された読経のお布施で生計を立てている人もいる。そこにつけ込んで、一部の葬儀会社は手数料を上げている」といいます。
■背景に「競争の激化」「クーリングオフの対象外」
こうした“ぼったくり”の背景の1つとして、森下さんは「葬儀場の市場の競争が激しくなっている」と指摘します。近年、新設した葬儀業者の法人数が、倒産・廃業した法人数を上回っている年が続いています。
森下さん:亡くなる人の数は2040年ぐらいまで増え続けていく見込みで、要するに葬儀業界は“安定的な業界”といえます。その中で、昔はあまりルールも決められてなくて、“どんぶり勘定”の業界であったといわれています。
また「いい葬儀」によると、葬儀にかける費用は減少傾向にあります。森下さんは「家族葬が増えてきているので、葬儀業者は数をこなして利益を得たいと考えている」といいます。
もう1つの背景として、森下さんは「行政の規制が緩いことに加え、クーリングオフの対象外になっている」といいます。
開業の届け出が不要で、業界を規制する法律や監督官庁もありません。また、クーリングオフ制度も葬儀は対象外となっています。
(Qなぜクーリングオフ制度の対象外?) 森下さん:人が亡くなることは予測できない。そのため訪問販売のように、あらかじめ通ってそれを契約させることができない業界なので、対象外となっている。
■トラブルを未然に防ぐためには? 「言わないとそのままの金額を押し付けられてしまう」
患者が亡くなったとき、家族に連絡がいきますが、大学病院などの大きな病院の場合、遺体は霊安室に安置されます。森下さんによると、霊安室には“霊安室当番”といわれる葬儀会社のスタッフの方がスタンバイをしていて、そのままよく調べずに契約してしまうケースもあるようです。
森下さん:8割ぐらいの人が身内の方が亡くなって動揺して葬儀業者を決めていない。葬儀業者にとって“霊安室当番”は「大きな営業のチャンス」ということで力を入れている。
葬儀でお金のトラブルにならないために、森下さんは「見積を必ずもらう」「事前に自分の予算を明確に伝える」「怪しいときは別の会社で相見積もりをとる」ことを挙げています。
さらに「お寺の力を借りることも有効な手段」と森下さんはいいます。
80代の父親の葬式で喪主を務めた50代男性。「50万円の家族葬」の広告を見て契約しましたが、見積金額は200万円でした。そこで、菩提寺の住職に相談しました。住職から葬儀会社に連絡すると、葬儀会社は「140万円に下げます」と返答がありました。さらに、住職が「知り合いの葬儀会社で見積もったら70万円だった」と伝えると、葬儀会社は「じゃあ70万円でやります」といったそうです。
森下さん:これは実際に住職の方から聞いた話で、言わないとそのままの金額を押し付けられてしまう典型的な例だと思う。自分でできない場合は、誰かに交渉してもらうことも手ではないかと思う。
お寺との付き合いがない人には、「まいてら」というサイトがあります。これはエリアごとに誰でも頼れるお寺を紹介しているようなサイトで、住職・僧侶のプロフィールや、葬儀プランの紹介も金額とともに表示されています。
最後にトラブルを避けるため、森下さんは「家族と相談し、事前に意向を確認しておくことが重要。親戚が集まりやすい年末年始に話すのもいいのでは」としています。
(『newsおかえり』12月19日放送分より)
増加する葬儀トラブル 「中抜き」「ぼったくり」相場の4倍以上の思わぬ高額請求も “規制の緩さ”“クーリングオフの対象外”で悪質業者の温床に【きょうの深掘り】
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