ヘルパーらが入浴介助や食事などの生活支援を行う「訪問介護」。日常生活に手助けが必要な高齢者にとって心強いサービスが大きな危機に直面しています。
訪問介護を行う会社の倒産件数が3年連続で過去最多を更新しました。去年の81件を今年は11月時点で上回っています。
“老後も住み慣れた家で安心して暮らしたい”という思いの実現は、今後難しくなるのでしょうか。訪問介護の今を、専門家とともに”深掘り”します。
■「訪問介護」相次ぐ倒産 事業者ゼロの自治体は全国で115町村
訪問介護事業者の倒産件数は、2021年以降増え続けていて、ことしはすでに85件に及んでいます。また、都道府県別では大阪府の12件が最多です。
介護には在宅介護と施設介護があります。ホームヘルパーなどによる訪問介護やデイサービスなどが在宅介護、特別養護老人ホームなどで生活するのが施設介護です。
要介護認定者のうち約60%が利用しているのが在宅介護で、施設介護は約13%にとどまります。
こうしたなか、訪問介護の倒産が増え、訪問介護事業所がない自治体は、全国で115町村にのぼります。
たとえば京都府笠置町では、2023年に事業所がなくなりました。現在、町内の高齢者は近隣の自治体の訪問介護事業所を利用しています。
訪問介護事業について詳しい大阪総合保育大学短期大学部の前田崇博教授は「高齢者にとってはライフラインが切られるのと同じくらいの衝撃。特にひとり暮らしの高齢者の孤立につながる」と指摘します。
■倒産増加の背景に「人手不足」「運営コスト高」「介護報酬改定」の三重苦
訪問介護事業者の倒産が増える背景として、訪問介護ヘルパーの人手不足、物価高でのコスト高、介護報酬の改訂が挙げられます。
大阪市内にある社会福祉法人「博愛社」の川田誠さんは「約10年間でヘルパーが16人から6人に減った。訪問介護事業単体は赤字で、別事業でやりくりしている」と話します。
倒産理由の一つ、介護報酬の改訂は去年おこなわれました。厚生労働省は去年、自治体から訪問介護事業所に支払われる介護報酬のうち、基本報酬分について「ほかより利益率が高い」として約2%引き下げました。
一方、介護報酬のうち加算分について、ヘルパーの賃上げのため2%引き上げています。前田教授は「実際は利益率が低い事業所がほとんど。高くみえるカラクリがある」と指摘します。
訪問介護には「地域の家を個別に訪問介護する」ものと「サービス付き高齢者向け住宅などで訪問介護する」ものの2つに分けられます。
この2つを比較すると、前者は利益率が低く、後者は高いのです。家の戸別訪問は移動に費用や時間がかかるのに対し、高齢者向け住宅は集中的に訪問できるため、利益率が高いのです。
前田教授は「この2つでは仕事の環境が違う。移動時間と経費も報酬の対象にする」よう求めています。
■訪問介護がなくなったら現役世代にも影響
訪問介護がなくなってしまうと、前田教授は「ヤングケアラーとダブルケアラーが増える」と指摘します。
「ヤングケアラー」は日常的に介護を行っている子ども・若者のことをいい、「ダブルケアラー」は
育児をしながら介護も行う人のことをいいます。このように、現役世代や子どもたちの負担が大きくなることが懸念されます。
では訪問介護サービスを維持するため、どのようなことが行われているのでしょうか。
まず、「自治体が補助金を出す」という仕組みです。高知県は、山間部など遠方にヘルパーを派遣する事業所に対して、市町村を通じて補助金を交付しています。このように、事業所が近くにない高齢者にもサービスが行き届く仕組み作りをしています。
また、「外国人ヘルパーによる訪問介護」です。今年4月から、介護事業所での実務経験など一定の条件を満たす技能実習生や特定技能外国人の訪問介護業務の従事が認められました。
そもそもの問題の背景に、「介護職員のなり手不足」があります。2000年度と2022年度を比較すると、介護職員の数は4倍近くに増えています。しかし2023年度は初めて前年割れし、約2.8万人減となりました。2040年度に必要な人数は272万人といわれていて、さらなる人手不足が懸念されます
人手不足の要因のひとつが「低賃金」です。全産業の平均給与が月額38.6万円に対し、介護職員は30.3万円と約8万円の差があります。
こうした人手不足に、前田教授は「ヘルパーの賃金を上げるのはもう大前提」として上で、「苦手な業務はやらずに、得意な業務に特化して仕事ができる新たな形」「空き時間を利用するスキマバイト」「週休3日制」など、介護業界で働きたいと思える環境づくりが大事だと指摘します。
(「newsおかえり」2025年12月11日放送分より)
訪問介護事業者の倒産が過去最多 ゼロの自治体は115町村 背景に”三重苦” 専門家解説【きょうの深掘り】
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