街中でよくみかけるように思う歯科医院ですが、実は今後減少し、足りなくなるという懸念もあります。
昨今、歯科治療を巡っては、虫歯が減少している一方で歯周病が増えているといいます。こうしたなか、歯科医院は経営環境が悪化しているとされています。どういうことなのでしょうか。
大阪・岸和田市にあるナカイデンタルオフィスの中井大介歯科医師の解説です。
■倒産・休業・解散が過去最多 若者は「歯医者は儲からない」
去年、歯科医院が倒産または休業・解散した件数は145件と、過去最高になりました。
歯科医院が倒産する理由はいくつか挙げられます。
まず、歯科医の高齢化です。
歯科医師を年代別にみると、2002年は60代が8.1%、70代以上は7.8%だったのに対し、2022年は、60代が23.1%、70代以上が12.5%にのぼりました。
歯科医師の約35%が60代以上ということになります。
中井歯科医師は、「医学を志す学生内で、歯科は儲からないという評判がある。人気低迷で若い医師が不足している」と話します。
中井歯科医師:
基本的に歯医者さんは二極化しています。保険診療をメインにしている歯科医院は薄利多売のビジネスモデル。それに今は人件費、材料費、光熱費などが上がっていて、医院経営に必要な金額がどんどん上がっていて、生き残りが難しくなっています。
歯科医は保険診療ではなく自由診療を伸ばしていかないと、経営はなかなか厳しいのが現状です。
そうした厳しさが若者にも伝わり、なかには募集定員に達しない歯学部もあります。
■歯科は現状「供給過多」 コンビニより多いその理由に歴史あり
理由の2つ目は、供給過多です。
現状、「歯科医院はコンビニより多い」といわれるほど数多くあります。
コンビニは約5万7000店舗なのに対し、歯科医院は6万6000件あります。
増えすぎているということは、一件あたりの利益も少ないということになります。
歯科医が多い背景には、かつての「虫歯の洪水」があります。1960~70年代の高度成長期に甘いものの消費が増加し、子どもの虫歯がまん延し社会問題となりました。これを受け、歯科医を増やすことになったのです。
■虫歯減少で患者減る 歯科医には打撃?
理由の3つめは、虫歯の減少です。
虫歯になる子どもの数は、減少傾向です。
今から30年ほど前は、6歳から8歳の9割近くが虫歯になっていましたが、2022年には3割未満でした。
歯科検診や歯みがきの習慣が定着していったことなどが理由として挙げられます。
つまり、そもそも虫歯患者が減っていたのです。
中井歯科医師:
歯みがきの定着に加え、フッ素塗布の機会が増えたことも虫歯減少の背景として挙げられます。それに子どもの数がそもそも減っているので、虫歯になる子どもは減っていっています。
中井歯科医師は、「今は供給過多な分が減っている状況だが、その後は地方で不足していく。5~10年でそういう未来がやってくるだろう」と指摘します。
■虫歯減っても歯周病は増加 「最も蔓延している感染症」
ただ、歯科医院の患者は単純に減少しているだけではありません。
虫歯が減った一方、歯周病は増えているのです。
歯周病は、細菌の感染による炎症性疾患で、歯茎や歯を支える骨などが歯垢や歯石などによって溶けていき、歯がぐらついてしまう病気です。
歯周病は「世界で最も一般に蔓延している感染症」として、ギネス世界記録にも認定されています。
WHO=世界保健機関によると、重度の歯周病患者は世界に約10億人いるとされています。
歯周病が増えた理由は、柔らかい食事が増えて唾液の分泌が減ったこと、無意識の口呼吸が増加していることが挙げられています。
口呼吸をすると口の中が乾燥し、抗菌作用が低下してしまうのです。
中井歯科医師:
虫歯は痛みがでますが、歯周病はそれがないので気付きにくいのが特徴です。自覚したときには手遅れというのが怖いところです。
柔らかい食事が増えて唾液の分泌が減ったこと、無意識の口呼吸が増加していることが挙げられています。
口呼吸をすると口の中が乾燥し、抗菌作用が低下してしまうのです。
歯が抜ける理由の半分は歯周病です。
歯周病の原因となる細菌のかたまりである「歯石」は、歯磨きでは取れません。
歯石除去は、少なくとも半年に一回は行っていただきたいところです。
■入れ歯が入手困難に? 歯科技工士も減少
歯科治療をめぐっては、歯科技工士も減少しています。これにより、入れ歯の入手が困難になる可能性も指摘されています。
歯科技工士とは、歯科医師の指示で入れ歯や詰め物などを制作・修理・加工する国家資格を持つ医療専門職です。
2020年ごろに3万5000人ほどいた歯科技工士は、2024年には約3万1700人と4年間にガクッと数を減らしました。
この時期に大きく減ったことについて中井歯科医師は、新型コロナウイルスの蔓延時期に歯科を受診する人が減ったことが理由の一つではないかとみています。
一方、全体的な減少傾向の原因としては、技工士の高齢化の問題を挙げます。
全国の技工士は、50代以上が半数以上を占め高齢化しています。
若者が歯科技工士を避ける背景には、長時間労働と低収入があるということです。
ある歯科技工士の女性は、時給に換算すると600円くらいだと嘆きます。
中井歯科医師は「長時間働かないと稼げないため、きつくて辞める人が多い。離職率は70%と言われている」と指摘しました。
歯科技工士の減少により、入れ歯が入手困難になっています。
本来、入れ歯の作成から完成までは、保険適用の場合、概ね1カ月ほどかかるとされていますが、ある男性は作り直しに2カ月かかったといいます。
男性は合わない入れ歯を使い続けた結果、胃潰瘍を発症しました。
中井歯科医師:
噛めない期間が長くなると、唾液が減って口腔内に影響します。胃潰瘍ということは、噛み切れないまま大きな塊がそのまま胃に落ちたことで負担がかかったのでしょう。
高齢者なら認知レベルも下がっていくでしょう。
■歯科医は「メンテナンスの場所に」 この先の歯医者さん像は
中井歯科医師は、今後の歯科医院像についてこのように語ります。
「虫歯にならないと現状歯医者に行かない人が多いが、歯のメンテナンスのために定期的に行く場所にしていくべき。それが歯周病予防にも繋がります。」
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